実践事例2

回復期のメンタル不調者がメンタルコーチングで元気復活

報告者
企業内保健師 40代女性
H21年 メンタルコーチング、ヘルスコーチング受講
同年、メンタルコーチ・ヘルスコーチ認定試験合格
受講目的
社内のメンタルケア、カウンセリング、教育、休職者の復職支援等のスキルアップ

社員のNさん(34歳女性)のケース

Nさんは数年来「うつ」で通院しており、私は健康管理室で時々カウンセリングをしてきました。
病状は落ち着き、治療も睡眠の薬のみになりましたが、自己肯定感が低く人の言動や行動にダメージを受けやすい、一度落ち込むと、しばらくその状態から抜けだせず、無気力、倦怠感や風邪をひくなどの身体症状が出る。といった傾向があり、体調を崩して仕事を休んだり、疲労感や眠気が強く健康管理室に来て休むことがときどきありました。

カウンセリングでメンタル不調を来すに至った状況はある程度明確になり、共有もできていましたが、そこからどうするのかが課題で、Nさんは「私はこの程度なのかな・・・」と諦め気味。私はもう一歩前に踏み出せる、エネルギーレベルを上げるサポートはないのかと物足りなさを感じている状態でした。

私がコーチングを勉強中だと話すと、たまたまコーチングに興味を持っていたNさんが「練習台でいいので、私のコーチングをしてもらえませんか?」と言いだしました。自信はありませんでしたが、とにかく少しでもいい変化があればと引き受けることにし、10日に一度くらいのペースでコーチングを始めました。

そして初回のコーチング、「私は役に立たない」「存在していて申し訳ない」などNさんはネガティブな発言ばかり。仕事の場面などで、できていることを取り上げて承認しても「そんなことありません」と、受け取らない状態でした。

「どんなふうになったらいいと思う?」と質問した私に返ってきた答えは「生きる目標がほしい。なにもやりたいことがないから・・」 でした 。Nさんが「自分にはなにもいいところや強味なんてない」と言いきるので、ストレングスファインダーを勧めてみることにしました。

結果、Nさんの強みは「調和性」「慎重さ」「共感性」「公平性」「規律性」であることがわかりました。この結果を見たとき、私は正直言って「なるほど人の影響も受けやすいし、苦しくなりやすいはずだ・・」と思いました。

その結果を受けてのコーチングでNさんに感想を訊くと、「うすのろで前に踏み出せない・・だめな私」というイメージで、「納得の結果。自分の

こんなの強みだなんてとても思えない・・」と言って、やっぱり自分はどんなにダメな人間かという嘆きにコーチングの時間のほとんどを費やしました。

私はその嘆きをひたすら受け止め、最後に「この強みが活きてることは本当に何も思い当たらない?」という質問を投げかけてみましたが、答えはありませんでした。

結局、Nさんがひどくダメージを受けたままその日のコーチングを終えることになり、私はストレングスファインダーを勧めたことを後悔したり、心配になったりしたのですが、この数日後、Nさんから「私は自分を見直してみる必要があるなと思いました。」というメールが届きました。その後、Nさんは改めて冷静に自分と向き合うことになり、「好きではないけど、自分はこういう人間かな」と、少しずつ自分を受け入れられるようになっていきました。

Nさんの以前の業務は度々の変更に柔軟に、即座に対応が求められるもので、しかもその指示は事務的で、フォローがなく、Nさんは常に葛藤を抱え、上司のそっけない態度に意気消沈し・・ということの繰り返しだったのです。

メンタル不調に陥ってからはその業務から外してもらい、部内の予算管理や細々とした事務処理などをしていましたが、今の業務をどう感じているか訊いてみると「急に変更ということもなく安心して取り組める」と言い、また、決められた数字を管理するのはやってみると面白いということが分かり、今後のスキルアップに向けて簿記2級の資格を取ることを目標に設定することになりました。

現在はその資格試験勉強の進め方を主軸にしてコーチングをしていますが、規律性が強みのNさんは「約束をする」ことや「報告をもらう」ことで計画通りクリアできる傾向があり、無理にならないよう確認しながら「約束」を使っています。また、Nさんの学習スタイルを考慮し、自宅の自室で、楽な部屋着で、声に出してテキストを読みながら・・・という具合に、なるべく具体的に勉強しているイメージを共有しながら勉強プランを決めるようにしました。

また試験勉強と並行して、Nさんにはずっと気になっている仕事上の未完了があることが分かり、それを片付ける具体的な行動プランを決めると、それをあっさりと片付けてしまいました。それから少しずつ自信が出てきたように見え、その後に自己肯定感のなさから決別できずにいた人との関係に自ら終止符を打ち、びっくりするほど雰囲気も表情も明るく変化していきました。

コーチングを始めたのが9月でしたが、12月に入ったある日「生まれて始めてこんなものを買ってみました」とNさんがバックから取り出したのは「夢をかなえる人の手帳2010」でした。ページをめくりながら、どんなふうに活用しようと思っているかを話してくれて、見るとすでにいろいろなことが記入されていました。当初、「なにもしたいことがない」と言っていたのが、まるでうそのように思えました。

以下、会話の一部です

2月の試験が終わったら何かやりたいことはあるの?
Nさん
3月には温泉に行きたいし、英会話も勉強したいなぁ あ、あとゴルフを始めてみようかと思って、スクールも調べてるんです
へぇ~ すごいね。やりたいこといろいろあるのね
Nさん
旅行したいところもあるし
来年は忙しくなりそうね
Nさん
そうなんですよ~ だから具合悪くなってる場合じゃないなって(笑)
Nさん、コーチングを始めたとき、どうなりたい?って私が訊いたらなんて答えたか覚えてる?
Nさん
んんん・・・・・・
生きる目標がほしい。何もしたいことがない。って言ったのよ
Nさん
へぇ~・・・今はそんなふうに思わないなぁ(笑)
そうなんだ。最近落ち込むことはない?
Nさん
ありますよ。でもなんで落ち込んでるのかわかるようになってきて、今はしかたない、少しすれば大丈夫。って思うんですよね。
Nさんすごくキラキラ、ピカピカね。何も言うことなし!ってかんじ
Nさん
(笑顔)

最近のコーチングは前回決めたことの確認と、承認だけで十分なくらいです。
Nさんは体調を崩して会社を休むこともなく、健康管理室に休みに来ることもなくなりました。

本人も「今だけ?この先もずっと大丈夫なのかな?」と不思議がっています。業務内容でも適性がはっきりしたこともあり、最近の上司との面接でも自分の目標や資格試験のことをきちんと話せたと言っていました。もともときちんと仕事をこなす人で、上司からは「他の部門から引き抜かれたら困る」と言われたと、照れくさそうに話してくれました。

Nさんの変化にコーチングがどう影響したのかNさん本人に訊いてみました(以下Nさんの答えをなるべく忠実に表現)

  • やっぱり話すっていい!話してるうちに「あ、そうか」って思ったりするし、気持ちが上向く。
  • こんなに自分をさらけだしてしまっても「変な人」だと思われないので安心して話せる。
  • 自分が嫌だと思ってたけど、でも自分はこういう人間だなと思うようになった。
  • 人に言われたことや冷たい態度に落ち込んでも、「こういうふうにされると私はショックを受けやすいから落ち込んでるんだな」と理由がわかるようになって、前のようにどっぷり落ち込まなくなった。
  • 他の人を見て、「あの人はこういう傾向があるな・・」と冷静に見ることができるようになってきた。
  • (コーチングで決めたことを)報告しなきゃ!とか、次のセッションまでにやらなきゃ!と思うと、ズルズル引き延ばさずにやれてしまってとてもいい。

Nさんとは以前からカウンセリングなどでかかわっていますので、安全安心の関係はもともとできていたかもしれません。カウンセリングでは物足りない、何かもう一歩・・という私と、自分から「コーチングしてもらえませんか?」と言ってきたNさん。まさにコーチングチャンスのタイミングだったと思います。

また、やはり「自分を知る」ことはとても重要だと実感しました。それによって人との関係で混乱することも少なくなり、自分をうまく活かせるようになる・・・まさに自己基盤力が大切だと再認識しました。
ますます輝くNさんをこれからも応援していこうと思います。