実践事例1

投げやりな受診者が激変!「承認」がもたらしたうれしい変化

報告者
企業内保健師 40代女性
H21年 メンタルコーチング、ヘルスコーチング受講
同年、メンタルコーチ・ヘルスコーチ認定試験合格
受講目的
社内のメンタルケア、カウンセリング、教育、休職者の復職支援等のスキルアップ

社員 Yさん (39歳男性)のケース

Yさんは以前から会社に対する不満があり「自分は会社にないがしろにされている」という思いが強く、毎日のようにお酒を飲み歩き、健康診断結果では血圧、肝機能、脂質などで問題が指摘されていました。
これまでも何度かYさんの保健指導をしてきましたが、いつも堂々巡りの状態になり、行動変容につながる展開には至りませんでした。

私は8月にヘルスコーチ基礎を受講し、改めて今までの保健指導を振ってみると、いかに承認がなかったか、また、「指導者」(私)と「指導を受ける人」(対象者)という上下関係で行われてきたことを思い知らされた気がしました。
そして、講座で学んだことを踏まえ、改めてYさんの保健指導をしてみることにしました。

その後の保健指導で、まずYさんに健康診断の結果をどう感じているか、どうなりたいと思うかを訊いてみると、「よくない検査結果だとは思う。でも、何かしようとは思わないな」と言い、その後も、「病気になったら入院でもして治療すればいいんじゃないかな」「長生きしたって意味がない。」と冷ややかな反応が続きました。

今も仕事や職場への不満が溜まっている様子が窺え、このまま健診結果の話をしてもYさんに受け取ってもらえないなと感じたため、いったん健診の話題は止め、まずはYさんの中に溜まっている思いを吐き出してもらおうと思いました。
「ところで、最近の職場の状況はどうですか?」と切りだしてみると、最初はポツポツと、その後どんどん溢れるように職場のこと、仕事への思いなどを話し、予定していた面談時間45分が経過したので、今回はここまでにしようかと切り出しましたが、「上司に、時間がかかると言って来たから大丈夫」と言って話し続けました。

結局1時間が過ぎたところで、さすがに仕事に戻るように促しました。
私は、「今回も成果がなかったか・・・」と、がっかりしながら、職場に戻るYさんに「いろいろあるけど、ねぇYさん、病気になってほしくはないなぁ。何かできそうなこと考えてみない?」と半ばやぶれかぶれで言いました。
実は何も期待していませんでしたが、3日後にYさんからこんなメールが届きました。

あれから考えてみました。
“歩けるときに歩く”くらいしか思いつきませんでした...

以前の私なら、このメールを見て “歩けるときに歩く”・・・そんな消極的なことだけなの?と不満に思ったはずです。
でも、ヘルスコーチ基礎を受講し、私の保健指導にいかに承認が足りなかったか、もっと!もっと!と要求して、粗さがしをしてきたかを痛感したので、“いいところ、できているところをまず探そう!”を自分のスローガンに掲げることにしたのです。

そう考えると、とにかくあの冷ややかなYさんが、ちゃんと考えてメールをくれたことがうれしくなり

ちゃんと考えてくれて、知らせてくれてうれしかったです。
“歩けるときに歩く” いいですね♪
日常で「歩けるとき」を探して、やってみましょうよ!

と、承認のメッセージを込めたメールを返信しました。
その後まもなく、ウォーキングキャンペーンという1ヶ月間歩数計で毎日の歩数を測り、基準を設けて表彰するイベントがあったのですが、今まで1度も参加したことのないYさんから参加申し込みが届き、これまたうれしくなりました。


そして1ヶ月後、歩数記録と共にYさんからのコメントが届きました。

意識したせいか結構歩いてました。
参加してよかったです。
継続できればいいのですが...

Yさんが「意識して歩く」なんていうことは、今までなかったんです。
私はとても嬉しく、もちろん承認のメールを送りました。

すごいのはその後、なんとYさんはキャンペーン期間が終わっても歩数記録を続け、更に一日の摂取カロリーと血圧測定値も記入した記録を送ってくれました。私はびっくりして、Yさんにこの経緯を訊いてみることにしました。
すると、保健指導の後、病院で血液検査と栄養指導を受け、カロリーブックを買い、血圧計を買い、毎日カロリー計算や血圧測定、記録をしたのだと言います。

さらに、次回の検査で効果を見るためにと、1ヶ月半すっかり禁酒もしたのだとか。
記録を見れば、歩数平均は前月のキャンペーン中より更に多くなっており、カロリーの脇に(食べすぎです!)といった感想も記入されています。また、血圧や各検査結果には明らかに改善が見られました(下表)。

生活習慣改善前後の検査値

検査項目 生活習慣 改善前 生活習慣 改善後
体重 65.8 kg 61.0 kg
血圧 150~90 mmHg 122~85 mmHg
LDL 142 131
HDL 78 91
AST 33 24
ALT 33 22
γ-GT 172 22

すばらしい成果を挙げた自信のせいでしょうか、Yさんの雰囲気も違いました。

以前は髪はボサボサで不精ヒゲ、どんよりと曇ったトーンの声でしたが、今はこざっぱりとカットした髪、ヒゲはきれいに剃られ、体重も減ったせいか全体的にスッキリと引き締まった印象です。声もワントーン明るくなり、口調も少し穏やかになっています。人ってすばらしい変化を起こすものですね。

何がYさんの行動変容の原動力だったのか訊くと、「いや~ 別に・・・」と笑っていましたが、その後思い浮かんだこととして教えてくれたのは、

  • 40歳(来年)からメタボ健診の該当になり、「メタボと判定されたら厳しい指導が控えている!」という危機感があったかもしれない。
  • 保健指導では「あれやれ、これやれ」と言われることがなくて良かった。振り返ってみると、保健指導では自分の愚痴を聞いて貰っている時間が長かった・・・・話しやすかった。

ということでした。
Yさんの場合は確かに次回の健診からメタボ判定の対象になるので、関わったタイミングもよかったと思います。
また、こちらの思いを伝えることに走らず、まずYさんの思いを受け止めることで安心して話せる雰囲気をつくり、Yさんに自分でどうするのかを考えてもらったことが自発的な行動変容につながったのかなと思います。

なお、私がYさんに関わるときに徹底して心がけていたのは、 スローガンにも掲げた承認です。Yさんの場合は存在の承認を特に意識しました。Yさんの話を聴いていて、「自分の存在を承認してもらえてない!」という悔しさがすごく伝わってきたからです。そのため、「私は・・・ 」と言うところを「Yさんの健康を支援する私としては・・・」と 言ったり、「必ず検査結果を見せて下さいね」とか「また記録を楽しみに待っています」といったように“あなたを見ていますよ。応援していますよ。”というメッセージを込めるように心がけました。

また、今までは対象者について感じたことを言葉に出して伝えるということがあまりなかったので、これも言葉に出してフィードバックするよう意識しました。それくらいのことしかしていませんが、とにかくびっくりするほどうれしい変化の連続に、なんとなく停滞気味だった私の保健指導への意欲がグンと上がりました。
これからもコーチングのトレーニングを重ねながら、嬉しい変化に遭遇できるよう保健指導に取り組みたいと思います。